JAK阻害内服薬がついに開業医で使えるようになりました。
この薬は細胞内の免疫活性化シグナル伝達に重要な役割を果たすJAKファミリーに対する阻害作用を示し、免疫反応の過剰な活性化を抑制することでADを改善する内服製剤です。
これまでも注射薬で処方できるものもありましたが、月2回の通院または自己注射をしなければならず患者様の負担がありました。今回のは内服薬なので、そういった負担がなくなります。
処方はある程度(定められた基準があります)重症な場合のみに限られ、また、3割負担で月2〜4万円(医療費の助成制度が受けられれば半額ほどになります)かかりますが、かなりの効果があります。年齢は12歳から使用できます。
私は開業前にアトピー性皮膚炎の免疫療法の研究(A, B)と皮膚バリア機能の研究(C, D)を行っておりました。それらを糧にして、当院のアトピー性皮膚炎の治療ではバリア機能の保護を最優先し、外用ステロイドを極力少量に抑える事ができるようにしています。
この方法である程度のアトピー性皮膚炎は最終的に外用ステロイドを使用しないで良い状態を保つ事が出来ております。
しかし、ある程度以上の重症な場合、バリア保護や強いステロイドを外用しても、抗アレルギー剤を投与しても効きません。これは皮膚の炎症が強く、かつ長期に遷延するためで、シクロスポリンなどの免疫抑制剤を使用しないと改善する事は困難でした。
JAK阻害薬はこの免疫抑制剤に相当する強力な抗炎症作用がある薬で、かつバリア機能をも回復させる効果があります。副作用的には免疫抑制剤より安全性は高いです。
投与前には内科的に肺結核や肝炎ウイルスの感染がないことを確認してから投与を開始しなければなりませんが、当院は内科(私も内科出身の皮膚科医)を併設していますので、当院で検査が可能です。
すでに数人に投与を始めていますが、投与開始して翌日から掻痒(かゆみ)が軽減し、1週目から皮膚症状が改善し、これまでに経験したことがないほど楽に生活ができるようになっています(いわゆるクオリティオブライフの著明な改善)。大量に使用していた外用ステロイドを終了できた患者様もいらっしゃいます。
大学病院時代にいろいろな治療を試み上手く行かなかった経験から、この内服JAK阻害剤の出現は、「このような治療が理想だった」と思わせる革命的な新治療です。これが契機となり、今後のアトピー性皮膚炎の治療はさらに進歩してゆくと考えられます。
参照
(A) J Am Acad Dermato 2000 Feb; 42(2 Pt 1) 258-62
(B) Clin Exp Dermatol 2002 May; 27(3): 225-9
(C) Skin Res Technol 2001 Feb; 7 (1): 36-9
(D) Skin Res Technol 2003 Feb; 9 (1): 31-3
2021年09月15日
アトピー性皮膚炎の革命的な新治療:JAK阻害薬
posted by 院長 at 18:22| 日記
2021年09月01日
ニキビ治療で陥りやすい誤解と、ニキビ跡治療の解説
A.ニキビ治療
私がニキビの患者様でよく経験する訴えは、「前医で処方された塗り薬では肌荒れがひどくヒリヒリするので、他の治療を希望して来院しました」というものです。
これはほとんどが担当医の説明不足による誤解です。
赤いニキビは出現して8週以内に治さないとニキビ跡を残すと言われていますが、
現在のニキビ治療では、ディフェリン、ベピオ、デュアック、エピデュオの4種のピーリング作用がある外用剤による治療が主流です。これらは毛穴に詰まった角栓を除去して赤いニキビになる前に治療してしまおうといういわば「先手の治療薬」で、ニキビ跡を残さずニキビを治す事を目的としています。
ピーリングすれば肌は乾燥してカサカサ、ヒリヒリしますが、これはピーリング作用が働いているというサインです。
「かぶれ」ではありませんし、必然的な症状なのです。ですから使用前にこれらの症状にどうやって対応するかを担当医が説明しておけば問題はないはずです。
一方で抗生物質による治療は肌荒れを起こしませんが、赤いニキビの炎症を治すだけの治療で、ニキビ跡の予防にならず、いわば「後手の治療」となります。
下図はニキビの症状別の治療方法を解説したものです。
ニキビはまず毛穴の角栓形成から始まります。この時点で治療してしまえば、赤いニキビに発展せず、ニキビ跡を残さずに治す事ができます。
一方、赤くなってしまったニキビは治ってもニキビ跡を残してしまいます。

B. ニキビ跡の治療方法
@難治性の赤いニキビ
これはなるべく早く治さないとニキビ跡になってしまいますので、飲み薬や塗り薬で治らないような場合は、酒さの治療でも用いる光線治療を行う事があります。
顔全体に照射して1回2,200円(学生は1,100円)。週1〜2回照射して10回くらいが目安。
A赤ニキビが治ったばかりで、皮膚が凸凹していない状態(図1)
この場合は、赤色に反応するように設定したフォトレジュビネーション(光若返り)※が適応になります。
両頬に照射して1回13,500円。月1回照射で半年が目安。
※当院では第2世代のIPLである「I2PL」を導入しています。
I2PLは従来のIPLよりも肌の若返り効果が強いのが特徴で、シミ治療や小じわの改善目的に使用します。
特に小じわやちりめん状皮膚に有効で、目の周囲や頬の小じわに使用します。

B皮膚が凸凹したニキビ跡(図2)
この場合は、フラクショナルレーザーの適応になります。
赤色が改善するだけでなく、凸凹が平坦になります。
両頬に照射して1回22,000円。月1回で半年が目安。
私がニキビの患者様でよく経験する訴えは、「前医で処方された塗り薬では肌荒れがひどくヒリヒリするので、他の治療を希望して来院しました」というものです。
これはほとんどが担当医の説明不足による誤解です。
赤いニキビは出現して8週以内に治さないとニキビ跡を残すと言われていますが、
現在のニキビ治療では、ディフェリン、ベピオ、デュアック、エピデュオの4種のピーリング作用がある外用剤による治療が主流です。これらは毛穴に詰まった角栓を除去して赤いニキビになる前に治療してしまおうといういわば「先手の治療薬」で、ニキビ跡を残さずニキビを治す事を目的としています。
ピーリングすれば肌は乾燥してカサカサ、ヒリヒリしますが、これはピーリング作用が働いているというサインです。
「かぶれ」ではありませんし、必然的な症状なのです。ですから使用前にこれらの症状にどうやって対応するかを担当医が説明しておけば問題はないはずです。
一方で抗生物質による治療は肌荒れを起こしませんが、赤いニキビの炎症を治すだけの治療で、ニキビ跡の予防にならず、いわば「後手の治療」となります。
下図はニキビの症状別の治療方法を解説したものです。
ニキビはまず毛穴の角栓形成から始まります。この時点で治療してしまえば、赤いニキビに発展せず、ニキビ跡を残さずに治す事ができます。
一方、赤くなってしまったニキビは治ってもニキビ跡を残してしまいます。

B. ニキビ跡の治療方法
@難治性の赤いニキビ
これはなるべく早く治さないとニキビ跡になってしまいますので、飲み薬や塗り薬で治らないような場合は、酒さの治療でも用いる光線治療を行う事があります。
顔全体に照射して1回2,200円(学生は1,100円)。週1〜2回照射して10回くらいが目安。
A赤ニキビが治ったばかりで、皮膚が凸凹していない状態(図1)
この場合は、赤色に反応するように設定したフォトレジュビネーション(光若返り)※が適応になります。
両頬に照射して1回13,500円。月1回照射で半年が目安。
※当院では第2世代のIPLである「I2PL」を導入しています。
I2PLは従来のIPLよりも肌の若返り効果が強いのが特徴で、シミ治療や小じわの改善目的に使用します。
特に小じわやちりめん状皮膚に有効で、目の周囲や頬の小じわに使用します。

B皮膚が凸凹したニキビ跡(図2)
この場合は、フラクショナルレーザーの適応になります。
赤色が改善するだけでなく、凸凹が平坦になります。
両頬に照射して1回22,000円。月1回で半年が目安。

posted by 院長 at 14:23| 日記
2021年08月27日
酒さ(赤ら顔)の治療法(再生医療とは無関係です)
1.はじめに
酒さは慢性的に顔が赤く腫れぼったい状態を言い、病気が進行するとニキビのような赤いブツブツも出現し、非常に治りにくい疾患です。
運動後や気温の変化に伴う一過性の顔の発赤とは異なります。
酒さには遺伝的背景はありますが、他にもニキビ菌、角栓などいろいろな要因が重なって発症します。
2.病態
@酒さでは皮膚バリア機能が低下し、角質の保水能力も低下しています。
Aバリア機能が破壊された状態はプロテアーゼ(カリクレイン5)の活性化を通して、カセリシディン(LL-37)を異常活性させ、これが皮膚の炎症を誘発します。
3.LL-37
このLL-37は細菌、カビ、寄生虫に対して抗菌的に作用して炎症を引き起こす物で、発赤や血管拡張の原因になっています。
実際に、LL-37をマウスの皮内に注射すると、酒さと同様の皮膚症状を再現することができます。
4.治療
酒さの治療では如何にしてこのLL-37を減少されるかがポイントになってきます。
さらに破壊されたバリア機能を回復させる事も重要です。
保険診療内だけの治療では酒さを治すことは困難です。特殊な石けん、特殊な外用剤などの使用がどうしても必要になります。それでもなかなか改善しません。
当院に設置した光治療器は、照射によりLL-37が減少する事が報告されている機器です。
副作用や痛みもなく、1回2,200円(学生は1,100円)で月4〜8回照射が推奨されます(予約は不要。ただし初診の場合は予約して診察を受けて下さい)。
1回の効果が弱いので10〜20回の照射が必要ですが、新たな補助治療としては有望なものです。


酒さは慢性的に顔が赤く腫れぼったい状態を言い、病気が進行するとニキビのような赤いブツブツも出現し、非常に治りにくい疾患です。
運動後や気温の変化に伴う一過性の顔の発赤とは異なります。
酒さには遺伝的背景はありますが、他にもニキビ菌、角栓などいろいろな要因が重なって発症します。
2.病態
@酒さでは皮膚バリア機能が低下し、角質の保水能力も低下しています。
Aバリア機能が破壊された状態はプロテアーゼ(カリクレイン5)の活性化を通して、カセリシディン(LL-37)を異常活性させ、これが皮膚の炎症を誘発します。
3.LL-37
このLL-37は細菌、カビ、寄生虫に対して抗菌的に作用して炎症を引き起こす物で、発赤や血管拡張の原因になっています。
実際に、LL-37をマウスの皮内に注射すると、酒さと同様の皮膚症状を再現することができます。
4.治療
酒さの治療では如何にしてこのLL-37を減少されるかがポイントになってきます。
さらに破壊されたバリア機能を回復させる事も重要です。
保険診療内だけの治療では酒さを治すことは困難です。特殊な石けん、特殊な外用剤などの使用がどうしても必要になります。それでもなかなか改善しません。
当院に設置した光治療器は、照射によりLL-37が減少する事が報告されている機器です。
副作用や痛みもなく、1回2,200円(学生は1,100円)で月4〜8回照射が推奨されます(予約は不要。ただし初診の場合は予約して診察を受けて下さい)。
1回の効果が弱いので10〜20回の照射が必要ですが、新たな補助治療としては有望なものです。


posted by 院長 at 12:41| 日記