2022年10月13日

JAK阻害薬:アトピー性皮膚炎、円形脱毛症の治療薬として

はじめに
JAK阻害薬は昨年秋に重症のアトピー性皮膚炎に保険適応となり、今年(2022年)8月に難治性円形脱毛症に対して保険適応となった免疫調整薬です。
 種々の疾患は免疫異常により発症しますが、治療としてステロイドやシクロスポリンなどの免疫全体を抑制する免疫抑制剤が使用されていました。しかし、これらの薬剤は副作用が強いため限られた疾患のみが治療の対象でした。
 免疫の流れの中にはJAK-STAT系と呼ばれるシグナル伝達部位があり、其の中でインターロイキン4(IL-4)やインターロイキン13(IL-13)の作用はJAK1とJAK2の経路を介してシグナルが伝達されます。このIL-4とIL-13のシグナル異常はアトピー性皮膚炎や円形脱毛症の発症に係わっているため、ここを(JAK1とJAK2)ピンポイントで遮断する事で両疾患を改善させる事ができるわけです。
この様に、今回承認されたJAK阻害薬はピンポイント的に免疫を抑制するので、これまでの免疫抑制剤とは異なり重篤な副作用の発生頻度が低くなりました。

当院での治療結果
(1) アトピー性皮膚炎
承認されてからの約1年間で26例の重症で難治性の方に使用しました。
効果があったかどうかの判定は、科学的というよりは実質的な評価で行いました。すなわち、高価な薬なので支払い負担に相応した効果(満足度)が得られたのか、という点を重視しました。
結果は無効3例、有効23例でした
この有効例の中には、幼稚園生の頃から当院で治療していてなかなか満足のゆく緩和状態に至らなかったのが、JAK阻害薬により高校生になってようやくアトピー性皮膚炎のストレスから解放されたという長期間難治性だった例や、最近になって急性増悪し難治性になった例など様々なケースがありました。長期間アトピー性皮膚炎に苦しめられていた場合、改善したときの喜びは計り知れないものと思われます。
画像2 JAKとアトピーグラフ.png

(2) 円形脱毛症
円形脱毛症に対しては承認されてまだ2か月ですが、承認を待ち構えていたので、早速、5例の方に治療開始しました。
全例で効果がみられています。
私は開業前に大学で脱毛症外来を担当していましたので、この5例の中には20年以上治療している方もいらっしゃいます。20年間でありとあらゆる方法で治療を行いましたが、JAK阻害薬を開始してから2か月目の状態はこれまでで最もよい状態になりました。医者としては複雑な心境ですが、やはり新薬に勝る治療はない事を痛感した次第です。円形脱毛症の場合もアトピー性皮膚炎と同じで、長年脱毛状態だったのが、JAK阻害薬により髪の毛が生えそろった時の喜びは、それは物凄いと考えます
ただし、円形脱毛症においては、その「型」によって適応の有無や有効性の差があります。下記に表にしてみました。
画像1円形脱毛表.png

JAK阻害薬の問題点
(1)価格が高い
   アトピー性皮膚炎では3割負担の場合で月2万円〜8万円ほどかかります。
   円形脱毛症では3割負担で月2万円〜4万円です。
   対策
   @付加給付金の利用:企業などの保険組合や共済組合によって独自の給付制度を設 
    けている場合がありますので、お勤めの窓口で相談してみましょう。
   A高額医療費制度:1か月の医療費が、ある一定額を超えた場合にその超えた分の金 
    額が支給される制度です。
   これらを利用して負担額を減らす事ができます。

(2)副作用
   免疫抑制剤と比べて重篤な副作用の頻度は少なくなりましたが、それでも副作用がないわけではあり 
   ません。多様な副作用の可能性が考えられますが、その中で重篤な副作用が含まれているので、下記
   に説明します。
   @静脈血栓、脳梗塞、心筋梗塞
    いずれも頻度は低いものですが、JAK阻害薬により血液が凝固しやすくなる可能性が
    ありますので注意は必要です。
    対策:中高齢、高血圧、高脂血症、下肢静脈瘤などの危険因子がある場合は、投与 
    前に血液凝固機能をあらかじめ検査(血液検査)します。動脈硬化や静脈瘤などが
    原因で凝固機能が高い場合はバイアスピリンやEPAなどを開始してからJAK阻害薬を
    始めると予防になります。
   A感染症
    帯状疱疹や毛嚢炎など。
    免疫力が低下するために発症する可能性があります。
    対策:一般的な帯状疱疹などよりも重症化する可能性があるので、速やかにJAK
    阻害薬を処方している医療機関を受診して早期治療を始めれば重症化を防ぐことがで
    きます。
    一方で、陳旧性肺結核やB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスの存在がある場合は使用
    する事はできません。
   B発癌性
    これについては明らかではありません。ただ可能性があるという事です。
    また、悪性腫瘍の既往がある場合は、(腫瘍の種類によりますが)使用できないか慎重投与
    という事になります。
posted by 院長 at 19:57| 日記