お久しぶりです。現在、薄毛治療における再生医療の有用性について、治療前後の写真を用いて検証中ですが、この新型コロナウイルス騒動で治療が途切れてしまった方もいらっしゃり、もうしばらく時間がかかりそうです。
最近の研究論文では、AGA治療による半年間のPRP再生医療の有用性は75%程度という報告が多いのですが、拡大鏡での観察結果で評価しており、肉眼的に満足できたのが75%という事ではありません。
実際に数回施術を行っても明らかな増毛効果が見られず治療を断念した患者様が数人いらっしゃいます。
当院ではPRP単独ではなくミノキシジルメソセラピーや臍帯血幹細胞由来サイトカインを併用して有効率をなるべく上げるように工夫して治療しております。それでも効かない例はありますが、全く頭髪がなかった部位から発毛している方もいらっしゃいます。
何故、効く人と効かない人がいるのか?これに関しては少しづつ解明されはじめていますが、まだ詳細は不明です。。
(2)どうして再生医療やミノキシジルメソセラピーなど面倒な治療をするのか?
再生医療などせずとも、ミノキシジル1日5mg以上の服用にスピロノラクトン内服を併用すると非常に強い発毛効果が期待できます。それこそ無分別と思われるくらいに、頭、顔、体感、四肢の毛が濃くなってきます。人目が気になるところは剃毛したりレーザー脱毛すれば済むことです。
従って、多くのAGA専門クリニックでは第一選択治療にミノキシジル内服and/orスピロノラクトン内服を行います。これは治療をする側も受ける側も非常に楽でかつ効果があるため、成り立ちやすいからです。
自分が内服しているミノキシジルやスピロノラクトンについての知識が高まるにつれ副作用が心配になり、遠方から相談のため来院される方がいらっしゃいます。多くは処方しているクリニックで親身に相談に乗ってくれない事が原因です。
脈拍数や体のむくみの診察や心音の聴診だけでなく、心電図検査や血液検査を時々行うだけで副作用はチェックできます。
(3)ミノキシジル内服中に頻脈と心嚢液貯留が認められた1例の報告
30歳代の女性で、今年1月から他院でミノキシジル5mgとスピロノラクトン(用量不明)が処方されました。脱毛状況を非常に心配されているため、今年2月から当院でも再生医療を行う事になりました。
1ヶ月〜1.5ヶ月に1回の頻度で再生医療{PRP、臍帯血幹細胞由来サイトカイン、ミノキシジルメソセラピー(施術日はミノキシジルは服用しないように指導)}を行いました。
当院初診時(2月)からいつも脈拍90〜100/分、血圧110/70mmHg程度を呈しておりました。発毛の反応は良く、顔などの多毛も認められておりました。
5月の受診時に、いつも頻脈であることから心電図をチェックしたところ、低電位の傾向(正常範囲内だが)にありました。心電図の低電位は四肢のむくみや心嚢液が貯留したときのサインです。下腿には明らかな浮腫はなかったので、心エコーで心嚢液の有無をチェックしました(下図)。

これは心臓を横にして見ている図で、左側に左心房、右側に左心室が映っています(血液は左から右側へ流れています)。左心室のさらに右側は心臓の先端部位でこれを心尖部と言います。また、左心室の下側を後壁側と呼びます。
この心エコー写真では、後壁の心筋の外側にわずかですが隙間が生じています。この隙間に心嚢液が貯留しています。さらによく観察すると、この心嚢液は右側の心尖部にまで及んでいます。
後壁に限局した心嚢液は正常人でも観察される事はありますが、心尖部に及ぶ場合は異常所見と捉えるべきでしょう。しかも、ミノキシジルを服用中で頻脈が継続しているという背景がある場合は、やはりミノキシジルの副作用を考慮してミノキシジルは中断または減量すべきと考えます。
月1回だけ行うミノキシジルメソセラピーの影響については、開始前から頻脈が見られていた事や、ミノキシジルを内服中の人に行う場合は投与量を加減している事などから考えにくいものですが、今後はメソセラピーも中止する事にしました。
(4)心嚢液が貯留しているとどうなるか?
心嚢液が少量のままであれば特に問題はないのですが、液量が経時的に増量しているのであれば、いずれは心タンポナーデという状態になります。これは心臓全体が心嚢液で被われてしまい(心エコーでは水の中で心臓が揺れているように観察され、心臓がスウィングしていると表現します)、心臓が拡張できなくなり心不全になっていきます。
心タンポナーデには急性と慢性があります。急性心タンポナーデの代表例は外傷性心タンポナーデで、これは応急処置が必要です。一方、膠原病などで発症する心外膜炎で心嚢液が貯留する場合は、慢性心タンポナーデでゆっくり発症し、原因疾患の治療を積極的に行う事で対応します。
ミノキシジル内服による心嚢液貯留は心筋内の血管拡張が誘因と考えます。血管拡張が顕著になると血管内から血管外に体液が漏出するためで、慢性心タンポナーデとなる事が推察されます。
今回の例も、あのままミノキシジル内服を継続していたら心タンポナーデに進行していたかもしれません。
(5)AGA治療におけるミノキシジル内服の立ち位置
私としては安易に投与しないようにしています。投与するにしても2.5mgで様子をみる。5.0mg以上に増量する場合は、それ相応に副作用チェックを厳重に行わなければなりません。
前述で、ミノキシジルand/orスピロノラクトン内服治療は与える側も受ける側も簡単であるから成り立ちやすいと言いましたが、副作用の事を考えると実は簡単ではないのです。医師も患者も常に副作用が出現していないかどうか心配し、毎回の診察も(医師側は)緊張するはずです。脈拍が早くなっていたら、触診によるむくみチェックも慎重になるはずだし、追加の検査として心電図検査を行うか、血液検査も行うべきかなど考えながら(自費負担になる事も悩みの一つ)今後の治療の方針が医師の頭の中を駆け巡っているはずです(少なくとも私は)。心電図についても機械が下した判定を鵜呑みにせず、自分で心電図を読まなければなりません。
ミノキシジルを連日内服投与する事は、このように非常に緊張する状況を医師自身に課す事なのです。
しかし実際には、安易に5.0mg(以上)を投与し後は毛が生えるかどうかだけを見ている、という事が多いような気がしています。